「土木工学」は、橋・港・道・トンネル・堤防・ダム・水道・送電線など、人間社会を支える様々な「社会基盤」を創り維持していくための学問分野です。自然災害から人々の生命・財産を守り、安心して暮らせる生活環境を安定的に提供することが、「土木工学」の社会的な使命と言えるでしょう。
そうした「土木工学」の体系のなかにあって、様々な社会基盤の創出や維持・補修のプロセスを通じてわが国固有の美しい「風景」をいかに残し・修復し・創造していくかについて考えることが、私たちの研究室が担当している「景観工学」の役割です。
戦後の復興から高度成長を経て最近まで、わが国における社会基盤の整備は「開発」という概念で簡略化され、「環境」や「景観」などの概念とは対極にある相容れないものであるとの常識が存在していました。しかし、わが国もようやく成熟社会への移行期に入り、社会の意識も大きく変わりつつあるなか、社会基盤整備を取り巻く環境は、これまでのような「開発」か「環境」か、という対立的な構図から、「自然や地域の風土を大切にしながら必要な社会基盤の整備を進めていく」という協調的な構図に180度切り替えることが求められています。そうした変化を表象しているのが、近年施行された「景観法」であり国土交通省の「美しい国づくり政策大綱」です。
しかし、こうした大きな変化が始まっているにもかかわらず、具体的にどのような理念・技術・方法論をもちいれば美しい日本の風景を保全・再生していくことができるかについては、未だ十分な蓄積がなされてはいないのが現状です。
私たちの研究室では、こうした社会の大きな過渡期にあって、どうすれば巨大な土木構造物を自然のなかにうまく溶け込ませることができるか、地域の風土にしっくりと馴染む橋の姿とはどのようにすれば描き出せるのか、市民の思いを社会基盤整備のなかでどう活かしていけばよいのか、美しい山並みや田園の風景を過剰な開発から守るにはどのようなルールを設ける必要があるのかなど、様々な視点から、わが国の美しい「風景」をいかに残し・修復し・創造していくかについて日々研究をおこなっています。
研究室の活動は大きく3つに分かれています。
一つ目は、上記のような課題についての息の永い様々な研究活動です。土木構造物が景観形成に果たす役割と可能性、幾世代にもわたる人々の手で少しずつ形成され守られてきた風土景観の価値の評価、市民参加の手法論、近代化遺産としての土木構造物の保存活用など、多様なテーマについて研究をおこなっています。
二つ目は、実際の社会基盤整備の場で川や橋、道など様々な構造物について計画やデザインに参加し、先進的・実験的なものづくりにチャレンジすることです。社会や行政、土木技術者の方々に対して「こんなやり方をすれば地域の風土にマッチした美しいものをつくることができるんだ」とか「こうすれば自然と調和した構造物をつくることが可能なんだ」という実例を提示することが目的です。こうした実践活動からフィードバックしたことが研究のテーマになることもよくあります。
三つ目は、各地で活発化しつつある市民主体のまちづくりの取組みをお手伝いさせていただき、必要に応じて専門的なアドバイスや支援活動をする社会貢献活動です。
詳しい活動の内容については、このホームページのそれぞれのリンクをご覧ください。
平成11年に誕生した私たちの研究室は来年で10年という区切りの年を迎えます。これまでにたくさんの卒業生たちが世の中に出て高い志を持って活躍してくれています。振り返ると、じつにいろいろなことをやってきました。結果の出たこと、出なかったこと、いろいろですが、今後もわが国の景観研究をリードする研究室として一歩一歩前へ進んでいくつもりです。
私たちの活動に興味をお持ちの方は、研究室までいつでもお気軽にお越しください。海に囲まれ美しい田園風景の広がる糸島半島の真ん中です。